8. 防水透湿素材(x-pore)と外殻設計の検証記録
肌に近い部分はウールやリネンで構成し、より外側の環境に対しては鹿革で構成する一方で、
一定以上の“雨や風”といった状況から身体を守るためには、外側の衣服に求められる性能はまた別のものになります。
特に山の中では、突然の天候変化に即応することが重要であり、防水性や透湿性といった機能は必要不可欠になります。
そんな経緯から、化学繊維をTARCHIで扱うことを検討し始めました。
軽さや機能性という点では優れている一方で、多くの防水透湿素材には、ポリウレタンを含む構造が見られます。
実際に、使用せず保管していた衣服が、数年後に取り出した際に、ベタつき、劣化していたという経験は少なくありません。
こうした背景から、長期使用においても安定した状態を保つことができる構造の素材を探すことになりました。
その過程で、台湾のBenQ社が開発したxporeという素材を知りました。
xporeは、ポリウレタンを含まず、漁業網のリサイクル素材を主成分として構成されています。
また、防水透湿素材の製造過程で問題とされるフッ素化合物を使用せず、PFASを排出しないプロセスで作られていることも特徴の一つでした。
当時、別の防水素材を用いた試作も進み、試作品での試験使用で着用テストをはじめていたmine jacketの前身についても検証を行う必要がありました。
(画像は生地がxpore ultraになる前、別の三層防水透湿素材で試作したもの。光沢や各ディティールが製品とは違い、袖や襟元を調整するブロックテーピング部分はこの頃はまだマジックテープです。パターンも製品と近いディティールがありますが、この後、より浸水や漏水が起きにくいようなパターン修正とそれに伴う形でのデザイン修正、シームテープの加圧テストを複数回、各アイテムの目的に合わせた雨風テストを、合わせて6回に渡って行うことになります。)
台湾の友人を通じて連絡を取り、xporeの担当部署の方にこちらの考えを伝えたところ、BenQ社は、まだブランドとして表に出ていないわたしたちに、ラボの見学と素材の説明を受ける機会をくださいました。
台湾で迎えてくださったxpore開発チームの方々は、素材の特性について丁寧に説明してくださり、ラボの設備も見学させていただきました。
その中で、着用試験で使用していた試作品の生地についても、訪台前に事前にBenQ社にお渡しし、比較対象として検証を行っていただいていました。
その結果、ポリウレタンを含まないとされていた素材には、構造上ポリウレタンが含まれていることが電子顕微鏡によって確認されました。
ポリウレタンは、時間の経過とともに空気中の水分と反応し、徐々に分解が進んでいく素材です。
その結果として、ベタつきや剥離といった変化が起こり、最終的には本来の機能を維持できなくなります。
この変化は使用の有無に関わらず進行し、保管しているだけでも避けることができません。
その進行の速度や現れ方には差がありますが、長期的に見れば、機能の低下やベタつき、剥離といった変化が起こる事例は広く確認されています。
実際にクリーニングの現場においても、製造から数年が経過したポリウレタン製品については、状態によって取り扱いが難しいとされるケースがあります。
わたしたちは、このような変化が外的な要因によって起こるのではなく、素材の構造そのものに由来して進行する点を重要な問題として捉えています。
生地を構成する中で、わずかであっても取り除くことのできない形で組み込まれている場合、その時点から素材は安定した状態ではなく、時間とともに極端な劣化が起こる前提を持つことになります。
すべての素材は時間とともに変化します。
ただし、その変化が愛着へとつながり得るものと、あらかじめ劣化が進行する構造を内包しているものは、同じものとして扱うべきではないと考えています。
その違いを曖昧にしたまま、長く使える道具として扱うことには違和感があります。
ただし、防水透湿構造においては、シームテープや接着など、部分的にポリウレタン系の素材を用いざるを得ない箇所があることも事実です。
これらは縫製部分からの浸水を防ぐために必要な要素であり、現時点では完全に排除することが難しい領域でもあります。
TARCHIでは、こうした要素については交換や補修が可能な構造として扱い、生地そのものに不可逆な形で組み込まれている場合とは明確に区別しています。
素材全体の寿命を決定づける構造なのか、部分的に更新可能な要素なのか。
その違いは、長く使い続ける上で重要な判断基準になると考えています。
xporeはポリウレタンを含まない構造を前提とし、生地そのものにおいてこうした分解による劣化要因を持たない素材であることが示されました。
これを受けて、試作段階で使用していた素材から切り替え、xporeを用いた外殻の設計へと進むことを決めました。
軽さと耐久性、防水性と透湿性、そして都市と自然の両方で使えること。
それぞれの要素の均衡を計りながら、長く付き合える“外殻”として成立する衣服を設計することを前提に進めていきました。
その一方で、実際の使用環境においては、一着のシェルジャケットですべてを解決しようとすること自体に、無理があることにも気づきました。
命を預ける道具という観点では、常に新しい技術や、劣化すれば新しく買い換えるという考えもありますが、そこには過剰な消費が起こります。
そして、過剰な性能を持っていても、使える局面は限られます。
プロの方にとっては必須となる装備であっても、一つのアイテムの劣化に常に注意を払い続けるような状況に、楽しむための登山をする多くの人が身を置く必要があるのかには疑問が残ります。
何より、その在り方はどこか窮屈にも感じられました。
xporeという素材によって、長期使用における性能劣化の問題については、一定の解決を見ることができました。
防水性や透湿性といった機能を維持しながら、時間の経過によって極端に性能が損なわれにくい構造を持つことで、更新を前提としない道具として成立させることが可能になります。
その上でなお残った違和感に対して重要だったのは、状況に応じて適切に組み合わせられる構造を持つことでした。
雨に対する装備は一つではなく、また、上半身と下半身とで求められる対応も異なります。
特に、下半身においては、従来のレインパンツは着脱や運用の面で制約が多く、即時性に欠けるものでした。
こうした実体験を踏まえ、x-poreという同一素材を用いながらも、外殻の構成を用途に応じて組み替える設計を行いました。
山歩きを想定した上で、強い雨風に対しては、上半身だけでなく下半身も含めた外殻として、シェルジャケットのmineと腰巻きのtattsukeを組み合わせて使用することを前提としています。
都市や旅先においては、同じ素材を用いながらも、より軽やかで単体として成立する外殻として、ブルゾンのsomukiを設計しています。
素材を一つに統一したことで、形を増やすのではなく、状況に応じた外殻を“組み方”として展開していくことになりました。

(画像はxpore ultraの生地。はっきりとした色味の白と黒。一般的な三層構造の防水透湿ナイロン生地と比べ、しなやかで、着用時に生地が擦れる音が気になりません。機能が極端に落ちにくい構造です。)
以降、台湾には二度訪問し、xporeのチームと直接話し合う機会を設けていただきましたが、
二度目に訪問した時の季節は夏、台湾の気候は高温多湿で、その頃試験使用で着用していたウールキャバリーツイルのパンツを真夏に試すには、絶好の機会でもありました。
それらの実感も踏まえ、
TARCHIで扱う素材については、経年による劣化を起こしにくい構造を選ぶことで、“長く使えるもの”として、その基準を定めていきました。