1. ウール素材に至るきっかけと着用体験の記録

2022年末にTARCHIを立ち上げようと思いました。

私の衣服への理想を並べれば、一般的な常識とされている衣服のあり方とは、どこか別の方向へ向かっていく予感がありました。

気がつけば、自分の日常の中で、本当に身に付けたい衣服とは何かを考えていました。

私にとっての日常は、都市での生活に限らず、山や自然、さらには中長期の旅も含まれます。

旅先ではランドリーサービスを使うこともできますが、当然ながら滞在日数が増えれば、替えの服が増え、荷物は多く、重くなっていきます。

できるだけ身軽に移動し、生活をしたい自分にとって、その点は常に、どうにかならないものだろうかと思いながら過ごしていました。

今から十数年前、欧州を訪れた際、現地に住む友人達に会う機会がありました。

私は以前から強く興味を惹かれていた衣服、ひいては生地やその組成などを何気なく調べていたこともあり、その時はある友人の着ているセーターに目が行きました。
彼は会うたびに、同じようなセーターを着ているように見えました。

尋ねてみると、彼の周りでは、二、三枚のウールセーターを洗濯せずに1シーズン着続ける人が少なくないということでした。

そうした着方は過去にも耳にしたことがありましたが、実感として、滞在のひと月半の間を意識して過ごしてみても、都度会っていたウールのコートやセーターを着る彼らや彼女らからは、衣服のにおいを感じることはありませんでした。

それをきっかけに、自分でも1シーズンを通して同じセーターを着てみることにしました。
結果として、生地自体から不快なにおいが出ることはほとんどなく、多くの場合時間と共に、そのにおいは抜けていきました。
他の素材と比べても、その抜けの速さは明らかに早く、食事や煙のにおいがついても、ホテルのシャワーを浴びたあとの湿気のある浴室で一晩ハンガー干しをしたり、風通しの良いベランダの日陰で数時間干すだけで、においは薄まっていきました。

羊毛素材自体に抗菌性や防臭性があることは知っていたものの、こういった経験から、長く着用することでのその機能性を実感できたことが、それまでウールという素材に対してのぼやけた輪郭に、焦点を当てるようになったきっかけでした。

この経験はかなり前のことですが、この頃から、
衣服は「増やすもの」ではなく、「減らせるもの」という考えを持ち始めたように思います。

欧米、特にヨーロッパでは、上質な衣服を数枚で着回し、同じものを長く着続けることは自然な習慣とされ、むしろ自分のスタイルを持つこととして受け入れられています。

私が現地で見た光景も、それと重なります。
数の話でも、衣服だけの話でもなく、選び方で生き方が決まっていく在り方が、そこにはありました。